お笑いライブのすゝめ

お笑いライブはいい。

一般に、「お笑いが好き」という人はけっこう多い。テレビでは日夜バラエティ番組やネタ番組を始め、あらゆる場面でお笑い芸人をみる。また都内では、毎日どこかしらでお笑いライブが開催されている。こういった状況にも関わらず、お笑いライブに行ったことがある人は、少なくとも自分の観測範囲内にはほとんどいない。

ただでさえ人間との会話に難がある私が、唯一の趣味といってもいいお笑いの話を封じられると、何も喋れなくなって厳しい。

そこで本記事では、私がお笑いライブを推す理由と、都内近郊で気軽に行けるお笑いライブ、その中でも自分が行ったことがあるものを中心に、分類して紹介する。

すすめる理由

趣味は仕事と違い、他者に価値をもたらす義務がない。従って、その価値を他者に言語化して説明するのは野暮である。良いから良いということでしかないが、それを言っていても人々はお笑いライブに行かない。そこで、あえて書いてみる。

心身の健康にいい

自律神経系に良い影響があるとまことしやかに噂されている(要出典)。そもそも自律神経とはなにか。なにもわからない。エンドルフィンによる多幸感や、セロトニンによる抗うつ効果など、眉唾な研究結果()もある。

これらを置いておいても、嘲笑や愛想笑いなど特別な場合を除いて、一般に「笑う」ということ自体が良い行為であることは議論の余地がなさそうである。例外なくポジティブであり、笑うと楽しい。楽しいと笑う。哲学者ベルクソンは、著書『笑い』において、笑いの健康に対する作用として「緊張からの放心」と「考える疲労からの休息」を挙げている。体感的にもこれは妥当に思える。

笑い (岩波文庫 青 645-3)

笑い (岩波文庫 青 645-3)

テレビでいいと思うかもしれないが、劇場に赴き「みんなで笑う」という行為は、想像以上に気持ちのいいものである。

テレビより1億兆倍おもしろい

たまにお笑いライブを他者におすすめすると、「テレビでみれるからわざわざライブにいかなくても…」という意見を頂戴することがある。これに異を唱えたい。

演劇や音楽のライブと同じく、お笑いにおいても、その場が持つ空気感、一体感は独特なものがある。テレビでお笑い芸人をみて「なんでこんなにおもしろくない芸人が売れているんだろう…」と思うことは多々あると思うが、実際に生でみると、彼らがとんでもないレベルで仕事をしていること、そのすごさを体感できる。こればかりは本当に行ってみないとわからない。

趣味としてのコスパがいい

劇場に行くと、テレビに出ている芸人さんたちが、目の前でネタやトークをやっている。料金は無料のものから数千円のものまであるが、それでも演劇やミュージカルと比べて破格といえる。

また後述するが、これから人気が出ていくであろう若手芸人を発掘するのも楽しみの一つである。地下アイドルやインディーズバンドを応援するような感覚で楽しめる。 ネタが洗練されていく過程や賞レースでの躍進などを間近で楽しめる。

プロから笑いを買える

唐突だが、異性とのデートを企てている若者たちは、ぜひお笑いライブをその選択肢に加えてほしい。この時点で、本ブログを読んでいるような層は、「自分には一切関係がない話だ、読み飛ばそう」と思うかもしれない。そうに違いない。ただ、ちょっとまってほしい。我々のような層にこそ、お笑いライブを一手として持っておくべきなのである。

異性とのデートにおいて、「楽しませる」ということは非常に需要なKPIである。ここでの要点は、我々のような層は、会話によって人間を楽しませる能力が信じられないくらい低い、ということである。そのため、何を話したら良いかわからず、混乱し、錯乱し、支離滅裂な発言をし、やがてすべてを失う。終焉の訪れである。

そこで、お笑いライブに行くことを考える。そうすると、「楽しませる」という部分を、まるっどプロにお任せできるのである。だいたいのおいてデートなど、その中での細かい会話などは案外覚えていないものである。「楽しかったな」「めっちゃ笑ったな」という印象が残れば上出来であり、それは必ずしも自身で達成しなくてもよい。自分が楽しませなければというプレッシャーによる負のループから抜け出することができる。

また、若者の一般的なデートとして、映画鑑賞が挙げられる。映画館に行って2時間座って鑑賞し、終了後にカフェなどで感想を言い合う。ここで重要なのは、人間は他者からよく思われたいというバイアスがかかるということである。人間は汚い。面白くなかったとしても、口頭ではなんとでも言える。それに対し、お笑いは笑うか、笑わないかである。より根源的でシンプル。同時に、笑いのツボが一致しているかも確認することができる。

お笑いライブ

ここまでで読者はお笑いライブに行きたくてたまらなくなっているはずなので、いくつか紹介する。

冒頭で述べたとおり都内近郊では毎日どこかでお笑いライブが開催されているが、その趣は多様である。
今回はお笑いライブに行ったことがない人に向けて、その概要を紹介する。

事務所ライブ、独立系ライブ、単独系ライブ、賞レース予選ライブと、勝手に分類する。

事務所ライブ

お笑い芸人を要する各事務所が、定期的にライブを開催している。 吉本興業がスケール的にも別格なので、よしもととそれ以外で紹介する。

よしもと

泣く子も黙る国内最大手お笑い事務所。
都内にも、ルミネtheよしもと@新宿、ヨシモト∞ホール@渋谷をはじめとてて、複数の劇場をもつ。 テレビでも見たことあるメジャーどころの芸人さんのネタや、よしもと新喜劇を楽しみたい方はルミネ、若手芸人のライブを安価で楽しみたい方は∞ホールをおすすめする。

∞ホールでは、その中でも突発のものからレギュラーものまで、様々なライブがほぼ毎日行われている。他者事務所と比較して、養成所やノウハウがあり、若手芸人であっても安定感がある。有力若手芸人が勢揃いする『JET GIG』をおす。休日の午前中から夕方にかけての公演が多く、直前でも比較的席が空いているので、急な予定も合わせやすい。

注意点としては、良くも悪くも玉石混同、かつ2時間に渡ってネタが続くため、かなりの疲労感がある。このあたりは個人差もあるが、体力に自信のある方、メジャーどころだけでなく次世代の若手にいち早く目をつけたい方はぜひチェックされたい。

よしもと以外

表にする。順不同。

事務所 主な所属芸人 拠点 特徴 事務所ライブ関連のURL
ワタナベエンターテイメント ネプチューン・ブルゾンちえみwithB・厚切りジェイソン・平野ノラ・四千頭身 表参道 左記のとおり、近年大ヒット芸人を続々と排出している。 ライブ情報|ワタナベエンターテインメント
人力舎 東京03・アンジャッシュ・ドランクドラゴン・アンタッチャブル・バカリズム・卯月 新宿 コント中心の芸人が多い。その影響で事務所ライブ「バカ爆走!」では、芸人登場時に拍手をしないことで有名。 EVENT イベント : JINRIKISHA OFFICIAL WEBSITE プロダクション人力舎オフィシャルウェブサイト
浅井企画 キャイ~ン・ANZEN漫才・流れ星・ドドん・ジャイアントジャイアン 新宿 萩本欽一氏、小堺一機氏、関根勤氏を排出し、「人間味あふれるお笑いのプロ集団」として知られる。 ライブ・イベント | 浅井企画|タレント・芸人・文化人 芸能プロダクション
ホリプロコム バナナマン・スピードワゴン・磁石・きつね 新宿 芸能事務所ホリプロのお笑い部門。渡辺正行氏主催のお笑い団体「M2カンパニー」が前身。 ホリプロお笑いライブ | ホリプロコム オフィシャルウェブサイト | HORIPROCOM Official Site
ソニーミュージックアーティスツ バイきんぐ・アキラ100%・湘南デストラーデ 千川 厳密には事務所内の「SMA NEET Project」がお笑い部門に位置する。バイきんぐ小峠氏曰く、「あらゆるオーディションに落ちた芸人崩れが最後に行き着く事務所」らしい。 SMA お笑いライブ会場“びーちぶ”
マセキ芸能社 出川哲朗・狩野英孝・ニッチェ・三四郎・ジグザグジギー・さすらいラビー 新宿 エクストラシルバー、ライラックブルーなど、ランク別ライブのライブ名がダサい。 マセキ芸能社 MASEKI GEINOSHA Official Site
太田プロ アルコ&ピース・アイデンティティ・新宿カウボーイ・ノブナガ 老舗事務所。かつてはビートたけしや片岡鶴太郎が所属しており、テレビ一時代の長だった。 ライブ情報 | 太田プロダクション
タイタン 爆笑問題・日本エレキテル連合・ウエストランド・XXCLUB 阿佐ヶ谷 私の推し事務所。事務所ライブにいくと長井秀和氏によるテレビ完全アウトなネタがみれる。 ライブ | TITAN

その他、松竹芸能という超大手から、ビートたけし率いるオフィス北野、サンドウィッチマン率いるグレープカンパニーなどなど、大中小含めて様々な事務所がある。

独立系ライブ

事務所以外にも、ライブ主催団体がいくつかある。お笑い好きのおじさんが趣味でやっている謎ライブもあったりして、本当に当たり外れが激しい。

K-PRO

主に都内のお笑いライブを主催する団体。

お笑いライブ・イベント制作 K−PRO

新宿、下北沢、中野などを会場に、ほぼ毎日お笑いライブを主催されている。 若手を中心に、事務所や芸歴問わず様々な芸人さんが出演する。たまにある大規模なライブでは、各事務所から豪華ゲストが出演するにもかかわらず比較的安価で、非常にコスパがいい。

様々なランクのレベルがあるが、初見だとわかりにくい。はじめていくなら、バティオスネタ祭り、V-1ネタ祭り、超ボルケーノ寄席、スペシャルブルームあたりが間違いない。次世代の若手をみたいなら、ブレナイなどもいいかもしれない。

U&Cエンタープライズ

同じく都内のお笑いライブ主催団体。

uandcenterprise.jp

K-PROほどではないが、こちらもかなりの頻度でお笑いライブを主催されている。エントリー制のライブから上位ライブまである。比較的、女性の芸人さんの出演が多い気がする。

下北GRIP

毎週金土日に開催される無料ライブ。

shimokita-grip.com

ライブ前の時間になると、下北沢駅、ピーコックの前で芸人さんたちが呼び込みをしている。会場はすごく怪しい場所にあって入りづらさ満点だが、けっこう満席だったりする。メイプル超合金やゆにばーすなど、ちょっと前までここで呼び込みしていた芸人さんがスター街道をのし上がっていくのをみるのが楽しい。

無料とはいえ、ライブ運営のために最後に芸人さんたちが出口で募金を募っているので、このブログを見て行かれる方は、ぜひ心ばかりの援助をされたい。

ラスタ原宿

ワンコイン500円で昼夜公演のあるお笑いライブ。

lastaharajuku.wixsite.com

休日になると原宿竹下通りで芸人さんたちが呼び込みをしている。場所柄客層は極めて若く、従ってコアなお笑いというよりはアイドル的な芸人だったり、軽めのネタがウケる。端的にいうとチャラい。かのブルゾンちえみ氏もラスタ原宿出演から人気が出た。

ちなみにラスタ原宿という名前は、劇場オープン時に出資してくれた小島よしお氏をリスペクトしてつけられた。現役の芸人である、ザ・ビリーバーズの延籐氏が代表を務める。

単独系ライブ

事務所ライブと異なり、特定の芸人さんが主体となるライブもある。

単独ライブ

特定の芸人さんが好きになったり、応援したいという感情が芽生え始めたら、単独ライブをおすすめする。
会場費などある程度の集客力を前提とするため、本当の駆け出しの芸人さんはあまりない。ある程度のファンがいて、賞レースで勝負をかけたい層が主になる。
会場を埋めることに苦労する芸人さんもいれば、チケット即完や、全国ツアーをやる超人気芸人もいる。気になる芸人さんがいたら、まず直近の単独ライブの情報を調べてみるといいかもしれない。

芸人主催ライブ

単独ライブと似ているが、こちらは芸人さんが自身だけでなく他の芸人さんを呼んだり、合同で主催するライブもある。

例を挙げると、バラエティ番組で活躍する若手芸人が賞レースに勝ちたい場合、単独ライブを主催してネタを試したくても、観にくる客さんは熱烈なファンが大半になってしまったりする。そこで、客観的視点でネタを試すために、複数の芸人で合同のライブを実施し、相互のファンの目を入れる、などがある。

また、相方をシャッフルしたり、ネタのテーマを縛ったり、個性的かつ挑戦的なものも多い。普通のネタライブ以外が観たくなった場合や、好きな芸人さんの新たな一面をみたい場合におすすめである。

賞レース予選ライブ

M-1をはじめとする賞レースの予選リーグは、通常のお笑いライブと同じく観覧することができる。芸人さんが本気ネタでしのぎを削るため、ライブとしての品質も極上である。決勝はテレビ番組のため、ショーと割り切って観るのがよく、むしろ予選リーグこそ若手芸人の本気が観られる。

賞レースは無数にあるが、今回はテレビ放映もせれてもっとも知名度の高いと思われる、M-1、キングオブコント、R-1を挙げる。

M-1グランプリ

日本一の漫才師を決める大会。 予選が8月から始まっており、年末にかけて2回戦、3回戦、準々決勝、準決勝と選抜されていく。決勝は年末のテレビ放映される。

プロだけでなくだれでも参加できるため、1回戦は真の玉石混同で、プロの芸人はもちろんだが、ノリで出場した大学生や、果ては夏休みの絵日記のネタにと参加した親子コンビなどもいる。 2回戦、3回戦と進むに従って選抜されていき、3回戦ごろにはほぼアマチュアは淘汰されている。

人気芸人の本気ネタが安価で鑑賞できるライブでもあるため、チケットが非常にとりづらい。準決勝などはチケット転売サイトで高値が取引されていた。発売と同時に即購入ください。

キングオブコント

日本一のコント師を決める大会。 M-1よりやや早く、7月から予選が始まって、決勝は秋頃にテレビ放映される。準決勝は9月だが、現時点で前売りチケットはすべて完売している。観覧希望の方は来年にご期待ください。

R-1ぐらんぷり

日本一のピン芸人を決める大会。 年末に予選が始まり、3月初旬の決勝にかけて選考が進んでいく。決勝はテレビ放映される。 昨年は盲目の漫談家である濱田裕太郎氏が優勝して話題となった。

M-1やキングオブコントに比べるとまだチケットが取りやすいはずなので、ご興味ある方は春頃にそのつもりで。

お笑いライブにいくデメリット

ない。

さいごに

テレビでみて気になっている若手芸人がいれば、まずその名前でググればTwitterアカウントや事務所のライブ情報が出てくるので、行ってみるとよい。気になる芸人さんがいない場合は、まずはヨシモト∞ホール、もしくはK-PROのスケジュールを確認されたい。最初なら以下の条件を満たすライブをおすすめする。

  • なるべく多くの芸人が出演する
  • 料金が1500円〜2000円程度

今後数ヶ月は、M-1とキングオブコントに向けた対策ライブが頻繁に行われる、いわばオンシーズンといっていい。ぜひ見に行って、各自の推しをみつけてもらいたいし、その話題をもって私の話し相手になってほしい。

本当は私の推しの芸人さんについて述べたいが、この余白はそれを書くには狭すぎる。