『モチベーション3.0』を読んだ

あけましておめでとうございます。お正月休みに実家で読んだ。いまさら感&非技術書で書くほどのこともないけど、感想を晒す。

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いわゆるビジネス書の類でベストセラーになっているし、まずタイトルが胡散臭い。単純労働から創造的労働が主体となる社会において、モチベーションに対する考え方も変える必要がある、という話。著者によるTED動画があるのでみてみるとよいかも。

www.ted.com

TEDでも本書でも語られているが、創造的労働としてソフトウェアエンジニアが挙げられており、Google社やAttrassian社を例に紹介している。また本書はGitHub社でも参考にされているらしい*1。自分の立場から感想を書いてみる。

内発的動機づけ

モチベーション1.0を「生存や安心に基づく動機づけ」、2.0を「アメとムチに駆り立てられる動機づけ」と定義している。近代社会は2.0に基づいて設計されており一定の成果を上げてきたが、社会の変容により不整合が起きている。具体的には、報酬と制約によるマネジメントは、単純労働には向いているが、創造性のある労働には適合しない。例えば、一定の水準を超えた報酬は、モチベーションの向上に寄与しない。「成果が出れば給料を上げる」とマネージャから言われたからがんばる、というのは、外発的動機づけと呼ばれる。自分以外のところにモチベーションの源泉がある状態。これに対し、本人の内部から発生する内発的動機づけが必要だと述べている。

内発的動機づけは、曲解すると、「やりたいからやる」という状態。報酬はこれを阻害する可能性がある。例えば、自分はマンガを読むのが好きだが、「マンガを読むと1冊あたり100円を与える」と言われると、読みたくなくなる。らしい。たしかに短期的には喜んで読むかもしれないが、長期的にはそれを強いられると苦痛になりそう。読みたくて読んでいるからこそ、いつまでも読んでいられる(と感じる)。コードを書くのも、趣味だと楽しいのに仕事だと楽しくない、ということは往々にしてあるが、これはその内容だけでなく、(給与にかぎらず評価や称賛などの)報酬によって内発的動機づけが阻害されている可能性がある。

特にソフトウェアエンジニアリングは、おそらく他の職種と比して平均的に創造性のある労働に分類される。ソフトウェアエンジニアにとってだいたいの仕事は未知である。自分も同僚も、過去にやったことがないことをやる。そのため、内発的動機づけが重要になる。

自律性・熟達・目的

内発的動機づけのために必要な、三大要素的なやつ。まず「自律性」とは、何をやるか、いつやるか、どうやってやるか、だれとやるかなど、仕事に対して自分が決定権を持つこと。わかりやすくは、20%ルール*2というのがあり、実際にここから独創的な発想が生まれ、主力プロダクトになるケースも聞かれる。オーナーシップという言葉と似ているのかも。

次の「熟達」は、なにか価値のあることを上達させたいという欲求。体感としても一致していて、仕事の中で必要な情報を調べたり考えたりして、結論「わかった」という状態になったときが一番気持ちいい。「できた」とか「評価が上がった」ということに対しては、客観的にみて嬉しいという感情はあるけど、内発的な感動はない。ドゥエックは、人の信念が熟達の内容を決定づけると主張し、これを自己理論と呼んでいる。自己理論において、「知能は存在する分しか存在しない」という固定知能観と、その反対の拡張知能観に分かれる*3。熟達に必要なのは後者のマインドセット。脳科学領域における可塑性は一般に認められている。脳が気持ちいいと思うことをやっていきたい。

自律性をもって熟達を目指す人間は、「目的」をもつとさらに大きな成果をあげるらしい。外部から目的を与えればよいということではなく、あくまで内発的に目的を保つ必要がある。組織にいる以上は組織の目的が前提にあり、それと自身の目的が紐づく状況を作るとよさそう。そう考えると、OKRのようなツールがでてくるのも理解できる。ソフトウェアエンジニアにとっては、コードを書くのが楽しいから続ける、というだけではなく、それが組織の目的に合致して結果的に貢献できることは、評価とフィードバックに結びつき、中長期的には強い動機づけになりそう。

まとめ

報酬による画一的な動機づけだけでは、自分も含めてソフトウェアエンジニアのモチベーションを保てない。やりたいからやるという状態を、本人も環境も作っていかないといく必要がある。ただし、報酬は低くてもいいということではなく、市場や他社との比較も含めて「気にする必要がない」くらいには与えられる前提であり、本書はその先のレベルの話である。つまり給与は1000倍にしてほしい。とはいえ、シャの仕組みとか偉い人たちの主張について、多少は理解が進んだかもしれない。

ビジネス書は普段あまり読まないし、読んだとしてもブログには書いていなかった。今後は、おもしろかったら書いてみようかという気持ちになった。本を読むのも、それ自体が目的になっていいし、熟達に向かう快感がある。コードを書くのもそうで、別に勉強のための勉強でもいいと思う。熟達に向けてコードを書こう。

*1:https://speakerdeck.com/schacon/robots-beer-and-maslow?slide=122

*2:業務時間のうち20%を使って好きなことをやっていい、というやつ

*3:https://fs.blog/2015/03/carol-dweck-mindset/